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日本が三兆円も使って、内需拡大どころか貿易不均衡をさらに悪化させかねない為替介入に出てきたことにサマーズ氏が激怒、公の場で日本の行動を非難した。
公の場で日米間の不調和が表面に出たということで驚いた市場は、それまで日米協調体制を恐れてあまり手をつけていなかった円ドルレートを一二○円どころか一気に一ドル一○○円近くまで押し上げてしまったのである。
そして、この答えは間違いなく「NO」だろう。
今のアメリカは人類史上最悪の貿易赤字をかかえており、自分たちこそドル安にして輸出を増やし、貿易赤字を減らしたいくらいだからである。
つまりドル買い介入は成功しなかったどころか、まったく逆効果になってしまったのである。
ここで市場が円安ではなく円高に持っていったのは、日米貿易不均衡の大きさに加え、財務長官に就任したばかりのサマーズ氏が米国の四○○○億ドルをゆうに超える人類史上最悪の貿易赤字に強い懸念を表明していたからであった。
退官した榊原氏の後を継いだ黒田財務官はバランス感覚の持ち主で、再び米国との協調に努め、一一月に遅ればせながら日本で補正予算が成立したことからアメリカの態度も和らぎ、再び為替レートは安定していった。
この一例を見ても、いかに両国間の協調が為替レートの安定に不可欠であるかがわかる。
これは一国の判断だけで決められる話ではないのである。
前述のクルーグマンMIT教授は、今でもNはドルを買ってでも円安にすべきなどと主張しているが、座談会で一緒になった時に、私のほうから、「あなたは円安、円安と毎回言うが、あなたはそれを日本で言う前に、ぜひワシントンのUSTRや議会を訪ね、あなたの円安提案に対する彼らの支持をとりつけてほしい。
もしもそのような支持が米国政府や議会からとりつけられるのなら、日本としても円安を一つの選択肢と考えることができよう」と言ったが、彼はそこでまったくしどろもどろになってしまった。
このような支持をワシントンでとりつけられるはずがないからである。
こうして見ても、米国経済が強く、しかも貿易不均衡はそれほど大きくない時ならともかく、この苦い経験を見ても、世界同時不況と言われ、日本のみならずアメリカ、台湾、タイ、韓国といった国々がすでにバランスシート不況か、その入り口にさしかかっている現在、通貨の切り下げ競争だけは、絶対やってはいけないことがわかる。
今のように米国経済も急速に冷え込み、しかも貿易不均衡がとてつもなく大きい時は、円安という選択肢はないと考えるべきだろう。
それどころか、このような局面で自ら貿易赤字を減らしたいアメリカと対立するような為替介入をやると、かえって市場が貿易不均衡の大きさに注目してしまい、逆に大幅な円高になりかねないのである。
もっとも同時テロが発生した後、ドルを含め世界中の市場が不安定になったなかでの日本のドル買い円売り介入にはアメリカも理解を示した。
ただこのような介入も、行きすぎるととんでもない反発をまねきかねない。
ここでも歴史に目を向けると、一九三○年代にバランスシート不況が世界を襲った時、各国政府は昨今のクルーグマン教授が主張しているように、外需に頼って不況から脱却しようと自国通貨を安くする政策を採った。
ところがその結果、世界的な通貨の切り下げ競争が始まり、それに耐えかねた国々が次々と保護主義に走った結果、世界貿易が激減、世界大恐慌となってしまったのである。
多くの人たちは、不良債権問題の「不良」という目障りな二文字に目を奪われ、この問題さえ片づければ、そこから日本経済は良くなると言っているが、はたしてそうだろうか。
本当にこの不良債権を処理したら景気は良くなるのかということは、もっと検証されなければいけない。
この不良債権問題は最近、K内閣の改革の柱の一つとしてずいぶん大きく取り上げられ、日本中で処理を急げという気運になってしまっている。
また、アメリカからも、とにかく不良債権処理だけは早く進めろと言われて、K首相がこれを約束し、一つの国際公約にもなってしまった。
金融政策が無力化されている今の状況は、今流行の銀行の不良債権処理問題にも重要な意味私は不良債権を全部処理しても、おそらく景気は良くならないと考えている。
なぜかというと、不良債権処理の遅れが景気の制約要因になっているわけではないからだ。
この不良債権問題を早く処理しようという現在の動きは、間違っている。
もしも不良債権問題が本当に景気の制約要因になっているとすれば、信用力のある借り手がいるにもかかわらず、銀行が不良債権問題を大量に抱えて自己資本比率が悪化しているために、お金を貸せないという状況になっていると考えなければならない。
しかも、もしもそういう状態であれば、日本の金利はどんどん上がっていなければならない。
なぜ金利は上昇していなければいけないのか。
もしも信用力があってお金を借りたい人がたくさんいるのに、銀行の貸せるお金がものすごく限られているということであれば、みんながその限られたお金をぜひうちに貸してほしいと言って、そこで資金の争奪戦が起きるはずである。
うちは二%出す、うちは三%出すからぜひ貸してほしいとなってきて、金利はどんどん上がらなくてはいけないのである。
本当に金利が上がっているのであれば、それは確かに銀行の資金供給力がボトルネックであって、貸せるお金が限られているから景気が良くならないのだ、と言うことができる。
そうであるならば、公的資金を投入してでも銀行が抱える不良債権問題を早急に片づけて、銀行がお金を貸せるようにすべきだろう。
本当に金融機関は、かわいそうなぐらいお金が滞留して、貸す相手が見つからないという状況になってしまっている。
確かに銀行の融資能力は一時に比べれば落ちている。
八○年代に日本の銀行の格付けがほとんどトリプルAで、資金も資本も充分あった時に比べれば、今の銀行の貸し出し能力はずいぶん落ちているだろう。
しかし、ここで見落とされてはならないのは、企業の資金需要のほうはもっと早く、もっと先に落ちてしまったということである。
銀行の供給能力が落ちたのは間違いないが、それ以上に企業の資金需要のほうがもっと落ちてしまった。
だからマーケットにはあふれんばかりのお金があって、金利はここまで下がってしまったのである。
この銀行が積極的にお金を貸そうとしていることは、N短観などにもはっきり表れている。
Nが毎三カ月おきに日本中の借り手企業約五○○○社に銀行の貸し出し態度をアンケート調査したものである。
つまりこれはNが借り手企業に対し、銀行は一生懸命貸そうとしているか、それとも資金回収ばかり言ってくるかを、借り手企業に聞き取り調査した結果である。
これを見ると、一九九七〜九八年の全国的な貸し渋り期を除けば、一九九○年代から直近の銀行の貸し出し態度はおおむねかなり積極的であることがわかる。
実際に信用力のある企業には、銀行は列をなしてお金を貸そうとしている。
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